事業承継との向き合い方⑤ 事業を譲る側がすべきこととは〜船に船頭は二人もいらない?〜
- 託す側の覚悟と心構え
- 託す側が事前にしておくべきこと
経営者は自ら経営する企業の成長と、従業員や取引先などのステークホルダーからの信頼に応えるために、日々全身全霊を傾けて事業に取組んでいる。一刻の油断が企業のビジネスチャンスを逸する時代になり、また、AIやIoTの進化により事業を取り囲む環境は、幅広い視野に立った経営判断のスピードと正確性が求められる中で、経営者は神経を擦り減らしながら経営に立ち向かっている。考えてみれば家族と向き合う以上の時間と気力と頭脳を使っているのだろう。
こうしてやっと築いた企業を、いつか誰かに託すときは必ずやってくる。そのとき、経営者はどう行動すべきか?
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事業承継との向き合い方⑥~引継ぐ側(後継者)の覚悟とタスク~
経営者にとって経営企業は“我が子も同然”である。企業が順風満帆、何一つ苦労もストレスも感じることなく、経営者の地位を全うできる企業はない。業績には必ず浮沈がある。資金や人や取引先などで、自社の経営の将来を揺るがすような出来事はいくつも発生する。まして中小企業の経営者なら、些細な事では済まされない出来事で幾度と困難にぶつかっている。
こうした苦境を超えて事業を引継ぐステージに立った経営者は、自社に対する想いも人一倍で、ついついバトンタッチするタイミングを見失ったり、後継者に過度なハードルを設けたり、過保護なまでに事業の将来に保険を掛けたりしてしまう。
その結果、後継者は身動きが制限され、マネジメント活力が削がれてしまう。そうなれば企業自体の活力がなくなってしまう。そうならないためにも、経営者は事業承継にあたっては以下の覚悟をもたなければならない。
経営企業がたとえ経営者の個人資産で成り立っているといえども、そこに他人の役員・従業員が働いていて、他人の多くの取引先と商流でつながっている。企業は経営者の懐から離れて、社会の一員として存在しているのである。
「自分(あるいは一族)の金で作った」という意識があれば、事業承継時に経営者の我儘が出てくる。これが「企業は社会に認知された公器」との意識で見れば、「自分のための承継」ではなく、「社会のための承継」「関係者のための承継」といった考えが優先されるだろう。その企業で働く者のために、取引先のために、という視点で事業承継を行う覚悟が求められる。
事業承継を公言し、経営権を後継者に譲ったら、その後の経営には口を出さない覚悟が必要である。
経営者はこれまで長い間自社の難しい経営の舵取りを行ってきた。企業を取り巻く外的環境、社会システム(取引慣行など)、先見性、社内事業など、経営者としての資質は一朝一夕でなくならない。そうした経営者にとって後継者の経営手腕は物足りない。ついつい口を出したくなる。しかし、こうなると後継者の経営方針、経営戦略は存在感をなくしてしまう。
船に船頭は二人もいらないのだ。
経営権を譲った段階で旧経営者は経営に口出ししてはいけない。例え、新経営者の経営方針や戦略が的を射ないものだとしても。求められない限り、口出しは無用である。万一、これで企業が苦境に陥ったとしても、現経営者が乗り切らなければならない。こうして新経営者は経営手腕を磨いていくのだから。
経営者として、事業承継を行うまでにしておかなければならない準備は多いが、多いが故に手を付けられないこともある。また、実際その場に立たなければ準備の必要性は感じられないだろう。しかし、事業承継のタイミングは突如として現れることもある。誰しも将来のことは断言出来ない。
また、事業承継という、経営者にとって“出口の視点”から今の経営環境を見ることも、自身の経営の健全度をチェックする上で有意義なことである。こうした観点に立って、経営者がしておくべき事業承継対策のいくつかを以下に挙げる。
1.事業計画をつくる
・経営理念の明確化・・・自社の存在意義
・経営方針の明確化・・・自社の企業価値
・中長期経営計画の作成・・・自社の計画後のあるべき姿、目標
2.事業承継計画を作る
・後継者の選定
・退任時期の明確化
・経営権の時系列的引継ぎ
・取引先の引継ぎ
・資産負債の明確化
・承継後のフォロー体制の明確化
3.人材の教育
・後継者に対する経営者教育
・後継者を補佐するスタッフの選定と育成
4.経営の見える化
・人事労務体制
・経営判断のプロセス
・潜在的リスク(負債)の明確化
この他にも経営者はその企業に沿った対策を講じることとなるが、必要なことは事業承継によっても、企業のパフォーマンスを落とすことなく事業が継続し、承継に関わる全ての人に幸福を感じてもらえる「事業承継」を意識して、対策を検討・実施していくことである。
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